本編はやっと第二章突入!
そう言えばこれって短編だったΣ( ̄□ ̄)
俺が彼女に心引かれるようになるのにそう時間はかからなかった。
ナイチンゲールシンドロームという言葉を良く聞く。精神的、肉体的に弱った状態の時に優しくされたりすると、自然と感謝の気持ちが恋心に変わるというあれだ。俺の場合それに加え、彼女は恋人と同じ容姿をしている。その彼女に何の関心も抱かずにいられるわけはなかった。
彼女は俺が満足に動けるようになるまで片時も離れることなく世話を焼いてくれた。自分を助けてくれた恩人と言うこともあるだろうが、彼女を見ているとそれが心からの自然で偽りのない行動であることが分かる。
同じ姿だが悪戯っ子の祐理に対して、志緒理はおとなしく時折壊れてしまいそうなほど儚く見えた。それがどこから来るのかは分からないが、俺はそれを守ってあげたいと思うようになっていた。
「それにしても意外だな。隆史君にそんな特技があったとはな……」
「特技って言う程じゃありませんよ」
俺はオムライスを皿に盛りつけると、憲司たちのテーブルへと運んでいく。何もしないで厄介になっている事に気が引けたこともあるし、この程度ならリハビリには丁度良い。毎日の昼食を作ることが俺の日課になっていた。
「謙遜することはないさ。志緒理よりもうまいかも知れないぞ? な、母さん」
憲司の横で黙々とオムライスを頬張っていた彼女は、ゆっくりと頷くと再びオムライスに手を伸ばす。聞いた話によると少しだけ痴呆が進んでいて、耳の悪さと相まって最近はあまり話したがらないそうだ。
「ちょっと、お兄ちゃん。私だって最近料理を始めたばかり何だからね? 昔から料理をしていた隆史さんに勝てるわけないじゃない」
ちょっと拗ねた風な表情を見せるが、すぐに笑顔に戻る。そんな表情を俺はついつい眺めてしまっていた。
「さあ、冷めないうちに食べよう! いただきます」
志緒理に憲司と俺も続く。両親が共働きの俺は自然と料理を作るようになっていたし、自慢じゃないがオムライスだけは結構な自信がある。スプーンを入れると、とろとろの半熟卵と熱々の炒めご飯が姿を見せる。チキンライスでないのは好みの問題だが、俺は塩胡椒と少量の醤油で味付けした炒めご飯にコーンを入れるのが好きだった。
幸いなことに他の人の口にもあったようで誰もが綺麗に平らげ、憲司に至っては炒めご飯だけお代わりをしたくらいだ。
「ご馳走様。うまかったよ。ところで……隆史君。片づけが終わったら話があるんだが良いかな?」
ずいぶん改まった様子だった。彼がそんな表情を見せるのは初めてで、俺の心を不安がよぎった。もしかしたら元気に動けるようになったのだから、そろそろ出て行けといわれるのかも知れない。それも当然の話だ。いつまでもここに居るわけにもいかない。いつかは出て行かなければならないのだ。
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